Helene Schjerfbeck
Self-Portrait, 1880 - 1884 13 × 12.5 cm, pencil purchase, 8.12.1995, A-1995-181 Owner: Suomen valtio Photo: Finnish National Gallery / Yehia Eweis
ヘレン・シャルフベック(1862〜1946)の生き様に共感し、フィンランドとバルト三国の旅の記憶と共に、彼女の作品をご紹介したいと考えました。
次の写真は、ヘルシンキにあるアテネウム美術館の展示室の風景です。ここにはシャルフベックのまとまったコレクションがあり、それらはこの美術館のシンボリックな存在として大きく打ち出されています。いまや、国民的画家として歴史に名を刻んでいるシャルフベックですが、その人生は決して順風満帆ではなく、むしろ常に逆風にさらされ続けていました。それでも、描くことをやめずにいたことが、こうして今につながっています。
最初、彼女はアカデミックな写実的絵画を描いていました。次の絵画は「戦争」をモチーフにしていることから、当時は「女性が描くようなテーマではない」といった批判に晒されます。
しかし、シャルフベックは自分が描きたいものを描くことをやめませんでした。
Wounded Warrior in the Snow, 1880 39 × 59.5 cm, oil, oil on canvas purchase, 1880, A I 221 Owner: Suomen valtio Photo: Finnish National Gallery / Yehia Eweis
やがて、同時代の画家の影響を受けることにより、その画風は抽象的なものへと変化していきました。私たちに馴染みがあるのは、変化した後の絵ということになります。
Helene Schjerfbeck, Girl from the Islands, 1929, oil on canvas, 45 × 30.5 cm, Yrjö and Nanny Kaunisto Collection Photo: Finnish National Gallery
Helene Schjerfbeck, Green Apples and Champagne Glass, 1934, oil on canvas, 40.5 × 33 cm Yrjö and Nanny Kaunisto Collection Photo: Finnish National Gallery
Helene Schjerfbeck, Circus Girl, 1916, oil on canvas, 43 x 36.5 cm Yrjö and Nanny Kaunisto Collection Photo: Finnish National Gallery
Helene Schjerfbeck, Einar Reuter III, 1919 - 1920, oil, 34 × 28 cm, Friends of Ateneum Collection Photo: Finnish National Gallery
国、肉親、性別…。あらゆるものが彼女に「こうあるべき」と語りかけてきます。しかし、違うと感じることに自分を合わせようとはしないのがシャルフベックです。理不尽に対してはNOとはっきり言うのが流儀でした。だからといって決してわがままな人ではなかったことは、彼女が唯一愛したエイナル・ロイター(RA7-MUT004のモチーフの男性)への対応からもわかります。彼を強引にでも引き止めるようなことはせず、恋人同士にはなりませんでしたが、距離をとり理解者として信頼関係を再構築しています。
強引に自分の方を向かせるようなことは、きっとシャルフベックのルールに反していたのでしょう。何よりも他人の干渉を嫌い、自分のことを自ら決める力を大事に考えていました。自分を信じることのできる、そういう意味での自信に満ち溢れた人だったようです。
そして、作品も彼女にとてもよく似ています。押し付けがましくもない優しい色調と、やわらかな輪郭で描かれる人物像は、どれも忘れがたい強い印象をもたらすものばかりです。
この4作の中に、あなたの心に引っ掛かる1枚がありますように。
ぜひ、多くの方にヘレン・シャフルベックへの興味を持っていただけたら嬉しいです。
2020年には、映画 “ HELEN ”(邦題『魂のまなざし』)が公開されました。こちらもおすすめです。